『Résonances』の願い
『Résonances』は、東京大学教養学部フランス語部会(現フランス語・イタリア語部会)を責任母体とする新たな学生論文集の企画として、2002年度に立ち上げられました。執筆資格を持つのは、東京大学駒場キャンパスの大学院修士課程・博士課程に学び、主にフランス語を研究手段とする者たちです。駒場の総合文化研究科は、言語情報科学・超域文化科学・地域文化研究・国際社会科学・広域科学という五つの専攻によって構成されています。いずれの専攻も学際性を重視していますが、本誌により形成される学問共同体は、この所属専攻という制度的な枠組みをさらに横断するものです。
ここでは学会誌とは異なり、執筆者全員が特定の学問分野やひとつの時代への関心を共有しているわけではありません。むしろ「フランス語文化圏」への関心と「フランス語使用」という糸で緩やかに結ばれているところに、『Résonances』のアイデンティティが見いだせるといえるでしょう。また、執筆だけでなく論文集の編集も駒場のフランス語系学生が担っており、学生の自発的な参加と協力による運営も、本誌の伝統となっています。創刊時に参加者たちの投票で選ばれた誌名のRésonances(レゾナンス)は、反響、共鳴を意味する言葉です。ひとりひとりの学問的な貢献が、たがいにこだましあい増幅しあいながら、多様な効果を生み出し、より大きな地平へ発展していくようにという期待が、この言葉にこめられています。
専門のデザイナーと編集者の全面的な指導と協力のもとで刊行されてきた『Résonances』は、2020年度刊行の第11号より、オンラインジャーナルとして生まれかわりました。新たなデザイナーによるディレクションを得ながら、従来の紙面におけるデザイン性を継承しつつ、オープンアクセスジャーナルとしての利便性を備えた本ウェブサイトの立ち上げが実現しました。これにともない、フランス語で執筆された論文も掲載することとし、また新たに「翻訳」部門をくわえて、新しいかたちでのスタートを切りました。「専門研究の充実をうながすとともに、各自の関心をできるだけ広い世界へと開き、執筆者と読者のあいだにいっそう豊かな響き合いを生み出す契機となる」という『Résonances』創刊以来の願いは変わることなく、異なる領域の研究者はもちろん、一般社会の読書人へ宛てて、新しい学術研究の成果を届けること。また日本国内のみならず、海外の日本語・フランス語使用者へ向けても、駒場の若い研究者たちの取り組みを公表することを目指しています。
本誌に掲載される論考は、それぞれ異なる目的をもつ四つの部門に分類されます。
まず「論文」部門は、高度な専門性を有する論考にくわえて、いわば領域横断的な、さらには実験的な試みをも積極的に触発する場として構想されています。多種多様な学問領域を専門とする執筆者たちがそれぞれの研究成果を発表する場として、また時には自らの研究の過程で出会ったサブテーマをふくらませる機会として、研究者たちの自由で豊かな発信スペースとなる役割を担っています。
「研究ノート」部門は、特定の主題について、明確な問題提起を行い、可能なアプローチを整理しながら、独自の展望を提示するための場です。留学先の大学に提出したMaster論文の梗概や、執筆中の博士論文の途中経過などを発表したり、出席したシンポジウムの議論を起点にして、自分の研究計画を明らかにしたりする場にもなりうるでしょう。
「クロニック」部門は、学生のアクチュアルな問題意識を反映する場です。専門的な研究書を紹介・論評するだけでなく、文学から映画、美術から音楽、舞台芸術からスポーツにいたる多様な領域に題材をとりながら、フランス語圏の文化と社会を照らし出す試みが展開できるはずです。
「翻訳」部門は、広くフランス文化圏の文学、言語、思想、社会などに関する論文やフランス語で行われた講演の原稿などを日本語で共有するための場です。例えば、それぞれの専門領域における重要な先行研究や、駒場で行われた講演会の内容などを、フランス語を専門としない読者もアクセスできるかたちで発信することで、新たな知的交流の起点となることができるでしょう。
フランス語部会の名において発行されるこのオンラインジャーナルの運営には、部会所属の教員全員が平等にかかわっています。とくに「論文」部門に関しては、少なくとも2名の教員が各論文の審査に当たり、第一回の査読後、具体的な書き直しの提案と指導のプロセスをへて、さらに第二回の査読が行われるという厳正な方式がとられています。また「翻訳」部門においても、学生による単訳である場合、教員との読み合わせのプロセスが義務づけられています。このようなレフェリー制度を設けることにより、学術誌としての水準が保証されるだけでなく、教員と学生が大学院での所属専攻をこえ、学問的な接点をもつという側面も強調しておきたいと考えます。
「研究ノート」と「クロニック」は、いわば若手研究者たちの自主管理ページです。原稿の提出に先立って、学生が草稿を相互にチェックしあうことが義務づけられています。
なお、『Résonances』は、2001年秋に刊行された東京大学フランス語教材『Passages : de France et d’ailleurs』(フランス語部会編、東京大学出版会)、およびその後続教材として2006年秋に刊行された『Promenades : En France et ailleurs』(フランス語部会編、東京大学出版会)の収益基金から援助を受けています。これら二種の刊行物は、「教育」と「研究」という不可分の営みのなかで、同じ目標を分かちあっているといえましょう。
『Résonances』が、若々しい知のメディアとなり、さまざまの反響を呼びおこすことを願ってやみません。
2019年9月
本文は、『Résonances』「創刊の辞」(2003年3月、2008年10月改訂)の精神を引継ぎながら、オンラインジャーナル創刊へ向けて新たに執筆したものです。
メンバー
『Résonances』第13号(Web版第3号)編集委員会
「フランス語・イタリア語部会」担当教員
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